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二投目!

 

時は『あちらの世界』の18世紀。
その世界も私達の世界と同じように、
人が生き、死に、作り、壊し、愛し、憎み続けてきた世界。
だが、運命は一つの歯車を狂わせた。
いやそれとも、私達の世界の運命が狂っていたのだろうか?
狂いは一人の人間の長寿、
それは何を引き起こすのか……
運命は何を望んだのか。
 
そこはこの黄金の宮殿、
人々の血と汗の結晶、
フランスの王権、ヴェルサイユ宮殿、
その中の一室に、その男はいた。
歴史は狂い始めた。
 
そこは玉座の間、アポロンの間と呼ばれ、
王が政治を取り仕切る場として作られた。
その壁は黄金で塗られ、優に十を超える光輝くシャンデリアがかけられ、
天井は丸くへこんでいてその中にもはや何を描いたのか、
それが分からぬほど筆の手が入れられている。
東側は吹き抜けになっており、そこからは光がその場に相応しいように入り込んでいた。
端的にまとめれば、豪華、
そういわれる場でその中心、玉座に座る人物は、
少なくとも私達の知る姿を持った人物では『なかった』。
 
 
 
その髪はもはや過剰と言える量の黒髪で、
顔は深くシワを刻み、若き日を想像するには困難でさえあるが、
その目だけは恐らく若者であった当時と変わらぬほどの力を持ち、
権力を求め、爛々と輝いている。
その体は剣を簡略化した文様を下地にした青に覆われ、
その足は足の大きさに等しい、というより小さめのストッキングを履いていた。
もっとも、その足もその年齢に応じて深いシワを刻み、
そのシワにストッキングが張り付く異様な光景になっていた。
 
そう、私達はこの男の若き日の姿を知っている。
ルイ14世(私達の世界において1638年生~1715年没)、
しかしこの世界では1740年現在においてもまだ現役である。
その歳、102歳。
その不死身の怪物が口を開く。
 
ルイ14世「朕は戦争がしたい」
 
側近「……は?」
 
ルイ14世「分からんか!
     朕は戦争がしたいのだ!
     もうスペイン継承戦争以来40年は戦争をしておらん!
     よいか!フランスを、朕を偉大なものとしようとするのなら、
     他国をひれ伏させ、
           朕が権威を絶対的なものとする戦争は必要不可欠なのだ!
     ショワズール(ルイ15世時代の宰相)は
           金が無いなどと寝言をほざいておるが、
     重要なのはフランスが戦争による勝利を必要としていることなのだ!
     金が足らぬのなら
           農奴共から今の二倍でも十倍でも搾り取ればいいのだ!」
側近(無茶苦茶言ってるよこの人……)
 
ルイ14世「そのような疑いの無い神の如きな思考方法によれば、
     次の敵はオーストリアで決まりであろう!」
 
側近「そ、それは一体どのような思し召しで?」
 
ルイ14世「分からぬか!
     オーストリアはかつて朕がフランスに歯向かったハプスブルク家の牙城!
     スペイン継承戦争において無残にも敗北し(※負けてません)、
     多くの領土を失い(※フランスも同じぐらい失いました)、
     いまやその力、
           消えかかるかがり火のようだが(※後
300年は消えません)、
     それでもいつなんどき、小賢しくも群れ集まり、
     それが例え米粒の一つであっても
           この神聖なフランスの領土を奪おうなどという可能性は、
     雑草の一つ程度のものであっても摘み取らねばならんのだ!
 
     しかもだぞ側近A
     今オーストリア公国がどのような状況か分かっておろうな!」
 
側近「はあそうですなぁ……
   最近カール6世大公も亡くなって、
   その娘、マリア・テレジアが公位を継ぎ、
   また神聖ローマ皇帝の地位もまた、その娘に引き継がれるという話ですな」
 
ルイ14世「それだ!
     まさに神の思し召し、
           朕にオーストリア征服せよという啓示だとは思わぬか!
     相手はたかだか23歳の小娘!しかも戦争は無経験ときた!
     この戦い、今までのような小さな戦果では終わらぬぞ!」
 
側近(小さいっていう自覚はあったんだ……)
 
ルイ14世「まずスペインに通達を!
     国境の近いスウェーデン、ロシアにも動員を要請せよ!
     あとなんだ、最近あの辺りで大きくなったとか言うプロ、プロ……」
 
側近「プロイセンでございますか?」
 
ルイ14世「それだ!」
 
側近(最近物忘れが酷くなってきたなぁ……
   ボケてんのか?)
 
ルイ14世「プロイセン!あの国も領土的野心を持ち、
     軍事の増強、そして実際に領土を広げていると聞く
     この超大国フランスが立ち上がると聞けば、
     あの汚らしいハプスブルクの犬であるよりは、
     この高貴なフランスの従順な臣下となった方がどれだけ尊いことか、
     それを理解し、すぐさま臣下の礼をとることだろう!」
 
側近「はあ……
   ではそのように手配を
   しかし、資金の方はどうなるおつもりですか?
   国庫にオーストリアほどの国と戦うほどの余裕はありませんよ」
 
ルイ14世「フッガー家から借りてくればよかろう!」
 
側近「しかしフッガー家も銀鉱でその富を築いた貴族ですからなぁ……
   最近の安いアメリカ産の銀に押されて経営も思わしくないと聞きます
   そのような所から借りるのは難しいかと……」
 
ルイ14世「むむむ……
     メディチ家はどうだ!
     あそこも金貸しという卑しい仕事で十分な富を得ているだろう!」
 
側近「覚えていらっしゃらないのですか?
   メディチ家は断絶なさいましたよ」
 
ルイ14世「何を言っている!
     つい最近朕はコジモと会ったのだぞ!」
 
側近「(だめだこいつ早くなんとかしないと……)
コジモ様は27年前に亡くなっておられます
   そもそも、メディチ家の最後の当主はジャン・ガストーネ様ですよ」
 
ルイ14世「……ええい面倒な!
     ショワズールになんとかしろと言っておけ!」
 
側近「……ではそう伝えておきます」
 
 
 
 
そう、この瞬間また一つの事実も変わった。
オーストリア継承戦争の主役はフランスとオーストリアと『なった』。
そして、もう一つの主役も当然行動を開始する……

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