フリードリヒとマリア・テレジアの物語4

四投目。

 

フランス使節「このような理由により我らが
                偉大なるフランス王国は宿敵オーストリア大公国に

　　　　　　　実に正当な、狂いの無い正義を持って剣を抜いた次第であります

　　　　　　　我らが国としては、

　　　　　　　貴国があのような国ではなく、

　　　　　　　我らが国を主君として認めることを期待する次第であります

　　　　　　　その交換条件として、
                我らはフランス王国内の公国の地位を与えることになっております」

 

それに答えるものこそマリア・テレジアに続くもう一人の主役。

その体は黒い、地味な軍服に包まれ、髪は同じく銀髪の作り髪、

全体としては華奢な印象しか与えない体格をしているが、

彼の謁見に望む様は既に戦いを経験してきた男のそれである。

そう、彼こそ北ドイツ地方を震え上がらせた兵隊王の息子。

フリードリヒ2世、プロイセン王国の国王に就任して僅かに七ヶ月、

しかし、その間に完全に軍隊を掌握しくるべき戦いに備えていた男。

年齢、28歳。

 

フリードリヒ2世「……交換条件としてオーストリア領土を加えることは可能か？」

 

フランス使節「そうですなぁ……

　　　　　　　あまり大きな所でなければ王も承認されるでしょう

　　　　　　　なにせ王は懐の深き方でありますからなぁ……」

 

フリードリヒ2世「では、我らとしてシュレジエンを要望するが、

　　　　　　　　　どうか」

 

フランス使節「シュレジエン？

　　　　　　　まあほどほどの大きさとは言えようが……

　　　　　　　少しフランス領に近すぎるのでは？

　　　　　　　我らとしては
                もっとオーストリア寄りの領土が望ましいのですがなぁ……

　　　　　　　まさか、
               貴国は我らが国に対しても野心をお持ちなのではないでしょうな」

 

フリードリヒ2世「私の要求は単純だ

　　　　　　　　　シュレジエンを与えられるなら、

　　　　　　　　　共に戦うことも考えよう

　　　　　　　　　だがそれが手に入らないのなら、

　　　　　　　　　神聖ローマ帝国に留まるとしよう」

 

フランス使節「いやに強情ですな

　　　　　　　しかたありますまい

　　　　　　　貴殿のご意見を王に申し上げ、

　　　　　　　再び参上することと致しましょう

 

　　　　　　　しかし、本当によろしいのか？

　　　　　　　王が貴殿の意見をお認めにならねば、

　　　　　　　貴殿はあの弱弱しい国と共に戦わねばならぬのですぞ

　　　　　　　今のヨーロッパを動かしているのは迷い無く我らがフランス

　　　　　　　その一歩後を追うのがイギリスという状況

　　　　　　　辺境と呼んでもかまわないオーストリアから、

　　　　　　　中心であるフランス王国に貴国を引き寄せようというこの提案、

　　　　　　　それだけでも決して悪いものでもないはず」

 

フリードリヒ2世「私はそのような抽象的なことで国家を論ずるつもりはない

　　　　　　　　　国家は今もなお変化を続けている

　　　　　　　　　その中でフランスも、イギリスも、

　　　　　　　　　中心であり続けることはできないだろう

　　　　　　　　　さあ、早く帰って私の要求を伝えていただこうか」

 

フランス使節「……口には気をつけることですな

　　　　　　　今の言葉が王の耳にお入りになるようなことがあれば、

　　　　　　　ただではすみませんぞ」

 

そう言ってフランス使節は王の間を出て行く。

彼が去ったのを確認すると王は深いため息をつく。

 

フリードリヒ2世「まあ外向きの対応はこんなものだろうか

　　　　　　　　　ロッホ」