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六投目。
兵士「申し上げます!
オーストリア大公使節様がご到着なさいました!」
フリードリヒ2世「すぐにお通ししろ
しかし、いったいどうなっているのだ?
フランスも我が国に興味など持っていないだろうに、
その国にも遅れて使節が到着するとは
ロッホプロイセンは見くびられているのだろうか?」
大臣「おそらくその使節殿は付近の公国、
ザクセン公国、バイエルン公国と持ち回りしている使節、
すなわち神聖ローマ帝国内の管理を一括された人物と考えるべきですな
これは大物ですぞ陛下どうぞ、粗相のなきように」
その言葉の後男が王の間に現れる。
金を基調としたいかめしい服装の、
その顔のシワから70代にも達しようかという風貌。
なるほど、彼はロッホのようにオーストリアの有力諸侯の一人なのだろうと、
フリードリヒには伺われた。
唯一不審なのは、ロッホが彼を初対面の人間のようにまじまじと見たことだけだった。
オーストリア使節「あ~おほん
いやはやまったく
神の罪作りなお方よ!
主は我らが幸福でありすぎないようにフランスを作った!
あの女ったらしの野蛮の国を!
あの国は滅ぼすのに難く、
付き合うのに煩わしく、
無視するにはおどろおどろしい存在
我らは仕方が無く、
あのような国の無秩序と欲望に付き合わねばならない!」
あのような国の無秩序と欲望に付き合わねばならない!」
フリードリヒ2世「フランスの宣戦は既にあの国の使節から伝え聞いている
できれば、私として今すぐにでも実務的な話をしてもらいたいのだが
戦争を始めるのなら、私達には時間が足らないはずだ」
そう言われるとその男は露骨に不満を顔に表す。
まだ演説を続けるつもりであったようだ。
オーストリア使節「いやいや、プロイセンも大きくなったものですなぁ!
まさかオーストリア大公直々の使節に口答えするとは!
たかだか王国として200年の歴史も持たぬのに……
私が仕えるハプスブルク家が
どれほどの歴史を持つのかご存じないのか?
どれほどの歴史を持つのかご存じないのか?
今から数えること、その歴史3000年に及ぶ
この世で最も尊き血筋を持つお家なのですぞ!
この世で最も尊き血筋を持つお家なのですぞ!
それに、たかだか300年の年の歴史しか持たぬ
ホーエンツォレルン家の人間が、口答えしようなどとは!
ホーエンツォレルン家の人間が、口答えしようなどとは!
いやはや、ザクセン選帝侯と言い、バイエルン選帝侯と言い、
最近の貴殿ら神聖ローマ帝国の家臣達は皆こうなのかと、
神にお聞きしたいものですなあ!」
王はその言葉を聞き流そうとした。
だが、それには一つ、聞きなれない情報があった。
フリードリヒ2世「ザクセン選帝侯とバイエルン選帝侯が一体なんだと?
彼らは私と違い、もう十分な経験を積んだ立派な選帝侯
貴方と言えど、そう簡単に非難していい人ではないはずだが」
オーストリア使節「なんだと!?」
そう言われると男は顔を真っ赤にして怒り出した。
王にはこのまま話しを続けるのは困難であるように思われたので、
話を逸らすこととした。
フリードリヒ2世「い、いや失礼
私は少し詮索し過ぎると部下からもよく注意されてしまう男で、
悪気は無かったのだ
どうぞ、話を続けて欲しい」
オーストリア使節「まったく……
では本題に入らせて頂くが!
我らの伝えるところは極めて単純である!
我らが宿敵、フランスに対抗するため
直ちに兵を率いてウィーンに参上し、
連合軍指揮下に入ること!
以上である!」
王の間に少しの時間が流れる。
そう、王はこの後に出されるべき言葉を待っていたのだ。
しかし、それが分からぬように使節は回答をせき立てる。
オーストリア使節「いかがなされたのか!
まさか、兵隊王のご子息ともあられる方が臆されたのか!」
フリードリヒ2世「いや、その、我らに与えられる褒美はいかなるもので?」
オーストリア使節「そんなもの、無いに決まっておろう!」
驚いた王に大臣が寄り添う。
フリードリヒ2世(ロッホこ、こんなこと普通にあることなのか?)
大臣(いや、不肖このロッホ、このようなことは初めてでございます
ともかくも、我らもただ働きをするわけにもいきますまい
シュレジエン以外にも、
報奨金であるとか、
大きめに求めて相手と落とし所を探すのが普通です
ここはシュレジエンと50万ターラーを要求してみましょう)
フリードリヒ2世「(だよね……)
あ~おほん
しかし、我々もただ働きというわけにもいかぬ
ここは一つ……」
オーストリア使節「なに!?卑しくも褒美を希望すると申すか!
この売国奴め!
そのような余裕があればスウェーデンの買収にでも使ってしまうわ!
この腰抜けめ!
神聖ローマ帝国に奉仕し、
ハプスブルク家の家臣と認められること以上の褒美など、
ハプスブルク家の家臣と認められること以上の褒美など、
あろうはずがないのだ、この大たわけが!
我らが要求することはただ一つ!
直ちに畏まって参上すること、以上である!」
フリードリヒ2世「そ、そんな馬鹿な!
そのような無茶な振る舞いを、彼女が、
あのマリア・テレジアが決めたのか!」
オーストリア使節「いや、テレジア様はお決めにならなかった」
フリードリヒ2世「では誰が!」
オーストリア使節「私だ!」
フリードリヒ2世「……は?」
オーストリア使節「貴殿ら臣下共に相応しいように、この私が決めたのだ!」
その言葉を聞き、また時間が流れる。
そして、再び大臣が王に寄り添う。
フリードリヒ2世(ロッホオーストリアの貴族というのは皆こうなのか?
正直付き合える自信が消え去りつつあるぞ……)
大臣(これもさきほど王がおっしゃった『老朽化』の一因と見るべきでしょうな
プリンツ・オイゲン様をはじめとして有能な方は多くおられるでしょうが、
この程度の者ものさばっているのでしょう)
その二人を見て使節がやかましく言い騒ぐ。
オーストリア使節「ええい、この程度のことさっさと決められぬか!
しかも、褒美などと!
ザクセン公と言い、バイエルン公と言い、
貴殿らの欲深きこと、まるで強欲を司るかのマモンのようですな!
貴殿らはやれと言われたことに『はい』と答え、
ただやればいいのだ!」
ただやればいいのだ!」
フリードリヒ2世「その、ザクセン公とバイエルン公はどうされたのか?
貴殿の要求を呑んだのか?」
オーストリア使節「卑しくも、彼は我らの真っ当な要求に対してなんと答えたことか!
ザクセン公は100万ターラーもの報奨金を望み、
バイエルン公はなんと、その薄い血のつながりを以って
神聖ローマ帝国の王位を望みおった!
ああ、まさに神に反旗を翻す行為よ!」
フリードリヒ2世「それでどうなったのだ?
貴方は彼らの要求を呑んだのか?」
オーストリア使節「まさか!
だから私は言ってやったのだ!
『そんなものを望むなら
フランスとでも組んでもらった方がいっそ清々する!』とな!」
フランスとでも組んでもらった方がいっそ清々する!』とな!」
フリードリヒ2世「そ、それで?」
オーストリア使節「そうすると、あの悪魔共め!
『ならば力ずくで頂くことにする!
この老害共め!』など言いおった!
ああ、なんと嘆かわしきことよ!」
フリードリヒ2世(ザクセンとバイエルンが寝返っただと!?)
フリードリヒの体内を冷たいものが駆け巡った。
王として、その危険がどれほどのものか、
そして男として、マリア・テレジアの危険を感じて。
フリードリヒ2世(ザクセンとバイエルンは北ドイツを取り仕切る大公国
神聖ローマ帝国の三割を、既にオーストリアは失ったことになる
しかも、我が国はその二国より更に北方に位置し、
もし我が国がオーストリア側に立つなら、
フランスとザクセン・バイエルン連合に
挟み撃ちに遭う可能性がある
更には、バイエルンはオーストリア本土の隣に領地を構える公国
この国だけは直接ウィーンを狙うという戦法が使える
となれば、オーストリアはたいした準備もないまま
初戦を迎える可能性が高い
……彼女が、マリア・テレジアの身が危うい!)
フランスとザクセン・バイエルン連合に
挟み撃ちに遭う可能性がある
更には、バイエルンはオーストリア本土の隣に領地を構える公国
この国だけは直接ウィーンを狙うという戦法が使える
となれば、オーストリアはたいした準備もないまま
初戦を迎える可能性が高い
……彼女が、マリア・テレジアの身が危うい!)
王は考えをまとめる。
全ての状況が、教科書通りの過程ではオーストリアを守れないことを示す中で。
だが、愛する者の危機が、彼の思考を明瞭にした。
フリードリヒ2世(彼女を他の誰にも渡すつもりはない
この戦い、困難ではあるが勝てぬ戦いではない
父の軍隊と、私の戦術を使えば)
オーストリア使節「さあ、ご回答を頂こうか!
私が早く帰らねば、
オーストリアにとって大きな損失となることでしょうからな!」
オーストリアにとって大きな損失となることでしょうからな!」
フリードリヒ2世「答えることは、ない」
その瞬間、空気が凍った。
このことはまさに王が今この瞬間決めたことなのだから。
オーストリア使節「い、今なんと?」
フリードリヒ2世「貴殿に答えることはないもない
褒美に関しては、マリア・テレジア様と直々に交渉することとする
さあ、お帰りいただこうか『老害』殿」
オーストリア使節「わ、分かっておるのか!?
私に逆らうことはオーストリアに逆らうこと、
神聖ローマ帝国に逆らうことなのですぞ!
それを
フリードリヒ2世「連れて行け」
命令を受けた兵士が使節を連れ出す。
オーストリア使節「こ、この覚えていろ、若造め!
テレジア様にあることないこと言ってやるからな!
後悔しなさるな~!」
そうして、騒音の源が連れ出されると王の間に静寂が戻る。
そして、大臣が問いかける。
大臣「フ、フリードリヒ陛下
いったいどうなさるおつもりで?
いや、そもそもなぜあのようなことを?」
フリードリヒ2世「知れたこと
あの程度の男が相手ではシュレジエンの交渉などままならぬ
かくなる上はマリア・テレジア様の下に直接参上し、
締結する他あるまい
それとも、ロッホは私にフランスと組んで欲しかったのか」
大臣「いいえ!
しかし、誰が、いかにして、かの大公の下へ参上するので?
まさか、陛下が直々に?」
フリードリヒ2世「そうしたいのはやまやまだが、
私は今から一ヶ月以内にザクセンを征服し、
バイエルンを行動不能にしなければならない
ロッホ、お前が行ってはくれぬか」
つづく。
つづく。
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